消化器内視鏡検査における抗菌薬耐性と消毒薬耐性の違い

内視鏡検査の中でも特に消化管検査は、さまざまな疾患を診断し把握するうえで極めて重要です。一般的にこれらの検査では、再使用可能な医療機器が用いられるため、細菌による交差感染のリスクを最小限に抑えるための徹底した感染予防手順が必要です。機器の衛生管理および患者の安全を確保する上での課題は、微生物の消毒薬耐性と抗菌薬耐性の両方に対処することです。これらはしばしば同一視されますが、実際には異なる耐性機序であり、病原体が感染予防対策を逃れる原因となっています。

抗菌薬耐性は、細菌が特定の抗菌薬にさらされた際に、耐性機序を獲得したり発現したりすることで生じ、標準的な患者治療の有効性を低下させる可能性があります。この耐性は遺伝子変異や水平伝播によりもたらされ、細菌群での急速な適応を可能にします。主な機序として、抗菌薬を不活性化する酵素の産生、標的部位の改変、および、抗菌薬を含む有害物質を細胞外に排出する薬剤排出ポンプがあります。このような適応は、特に感染リスクの高い患者を抱える医療現場において、重大な懸念事項となっています。

抗菌薬耐性の増加は、21世紀において、国際的に重大な医療上懸念事項として浮上しています。過去数十年にわたり、抗菌薬の過剰使用および不適切な使用により、薬剤耐性株の増加を加速させてきました。抗菌薬は、ウイルス感染症や予防目的などで、必要ではない場合にも使用されることが多々あり、農業や畜産分野での不適切な使用も耐性拡大の一因となっています。細菌が抗菌薬に耐性を持つことは自然の過程ですが、人為的要因により多剤耐性菌の出現が助長され、かつては治療可能であった感染症の抑制が困難になっています。たとえば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やClostridioides difficileは、複数の抗菌薬に対して耐性を示すようになり、それにより治療選択肢が制限され、罹患率や死亡率の上昇につながっています[10]

一方で、消毒薬耐性とは、微生物が化学的消毒薬への曝露に対して生存し得る能力を指します。医療現場で使用される消毒薬は、細胞膜やタンパク質を壊すことでさまざまな病原体を死滅するよう設計されていますが、一部の微生物は、バイオフィルムの形成、薬剤排出ポンプの活性化、または消毒薬を無効化する酵素の発現を通じて耐性を獲得します。

バイオフィルムは、医療機器のリプロセスにおける消毒薬耐性の主要因の一つです。バイオフィルムは、細胞外マトリクスに覆われた微生物の構造化された集団であり、医療機器の表面に付着する可能性があります。そのため、検証済みのリプロセス手順を遵守することで、効果的にバイオフィルム付着を防止することが重要です。内視鏡などの医療機器に付着したバイオフィルムは、微生物のリザーバーとなり、消毒薬から守る役目も果たします。中でも緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、内視鏡にコロニーを作ってから24時間以内にバイオフィルムを形成し、高水準消毒の有効性を低減させる可能性があります。

バイオフィルムは、多糖類、タンパク質、DNAからなる細胞外マトリクスに覆われた微生物で構成されており、抗菌薬や消毒薬に対する物理的なバリアを形成します。この構造により、細菌は厳しい環境下でも生存しやすくなり、洗浄や消毒工程での除去が困難になります[6]。バイオフィルム関連細菌は課題をもたらす可能性があるものの、適切な洗浄手順と検証済みのリプロセス技術を用いることで、バイオフィルム関連の汚染を効果的に予防し、医療現場における感染リスクを低減することが可能です。

抗菌薬耐性と消毒薬耐性の耐性機序

細菌は、遺伝子変異、または他の細菌から耐性遺伝子を獲得することで、抗菌薬に適応することができます。遺伝子の水平伝播は、この適応過程において重要なプロセスであり、細菌が環境中や他の細菌細胞から抗菌薬耐性遺伝子を獲得することを可能にします。プラスミド、トランスポゾン、インテグロンは、薬物耐性の拡散を促進する遺伝因子であり、細菌集団内で耐性特性が急速に広がるのを容易にしています。これは、特に抗菌薬が広く使用されている医療現場において、抗菌薬耐性の出現を加速させています[8]

同様に、細菌は消毒薬に対する複数の耐性機序をもつことができ、これらは抗菌薬に対する耐性機序とは異なるものの、機能的には類似しています。機序の一つとして、細菌の細胞から消毒薬を排出し、その効果を低下させる薬剤排出ポンプの活性化があります。さらに、細菌は消毒薬を分解または中和する酵素を産生したり、これらの薬剤効果を低下させるために標的部位を変化させたりすることがあります。そして前述のように、バイオフィルムの形成は、消毒薬耐性におけるもう1つの重要な要因であり、消毒薬が細菌細胞に到達するのをバイオフィルムマトリクスが阻害し、消毒を一層困難にします[9]

感染対策への取り組み

抗菌薬耐性と消毒薬耐性が増大している現状において、医療現場における感染対策には多角的なアプローチが求められています。これには、徹底したリプロセス手順の実施と、遵守を確実にするための定期的なモニタリングが含まれます。抗菌薬耐性の拡大および消毒薬耐性に関する新たな懸念を考慮すると、スタッフに対する継続的な教育とトレーニングが、患者の安全を維持するうえで極めて重要になります。医療従事者は、業界の最新のベストプラクティスとリプロセス技術に関する最新の知識を身に着けている必要があります。リプロセス手順に関する適切なトレーニングは、スタッフがベストプラクティスを効果的に実施できるようにするために重要です。抗菌薬耐性や消毒薬の耐性、およびバイオフィルム形成がリプロセス過程に及ぼす影響についての教育は、内視鏡を担当する医療従事者にとって極めて重要です。トレーニングプログラムを定期的に更新し、再教育コースを提供することで、感染対策の手順の遵守に役に立ち、スタッフが汚染リスクの低減の取り組みにおいて常に最新の注意を払い続けるようになります[5]

消化器内視鏡における薬剤耐性菌

消化器内視鏡において、不適切にリプロセスされた内視鏡に薬剤耐性菌が残存する可能性は、患者の安全性を支えるための検証された洗浄手順の重要性を強調しています。Klebsiella pneumoniaeEscherichia coliなどの病原菌のうち一部の耐性株のように、本来は消化管内に常在しうる病原菌は、内視鏡の手技後のアウトブレイクと関連付けられています。これらの病原体は複数の抗菌薬に対して耐性を示すことがあり、治療の選択肢を著しく制限します。研究によると、確実なリプロセス基準を維持することが、医療現場における多剤耐性菌曝露のリスクを最小に抑えるために必要不可欠とされています[1]

Klebsiella pneumoniaePseudomonas aeruginosaなどの薬剤耐性株は、医療現場で比較的よく見られ、バイオフィルム形成を含む複数の機序によって、内視鏡における菌の残存を可能にすると考えられます。以下の表は、消化器内視鏡の手技に関係する病原体のうち、主な耐性機序を抜粋したものです。

表1:消化器内視鏡検査に関係する病原体における抗菌薬耐性機序[7]

病原体

耐性を獲得する機序

臨床上の影響

Klebsiella pneumoniae

カルバペネマーゼの産生(KPC、NDM)

高死亡率、限られた治療選択肢

Escherichia coli

基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)

βラクタム系抗菌薬に対する選択肢の制限

Enterococcus faecium

バンコマイシン耐性(VRE)

別の抗菌薬が必要

Pseudomonas aeruginosa

薬剤排出ポンプ、バイオフィルムの形成

バイオフィルムの形成により根絶が困難化

Staphylococcus aureus

メチシリン耐性(MRSA)

通常の第一選択治療に対する耐性

内視鏡検査における抗菌薬耐性と消毒薬耐性の課題

医療環境における抗菌薬および消毒薬耐性微生物の存在は、内視鏡手技を受ける患者の安全に課題を生じる可能性があります。過去の汚染された十二指腸内視鏡に関連するカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)のアウトブレイクは、感染リスクに対する意識を高める要因となり、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータは、 多剤耐性菌が医療関連感染の大部分の要因であることを示唆しています[2]

同様に医療機器に存在するバイオフィルム、およびそれに関連する消毒薬耐性は、患者の安全対策を複雑にする可能性があります。バイオフィルムは、高水準消毒から微生物を守るだけでなく、耐性微生物のリザーバーとして機能する可能性があります。研究により、リプロセス過程においてバイオフィルムを完全に除去することの困難さが、内視鏡部門における耐性微生物の伝播の一因となり得ることが示されています[3]。これらの知見は、使用者がすべての機器に対して、製造業者の検証済みリプロセス手順を遵守することの重要性を強調しています。

結論

抗菌薬耐性と消毒薬耐性は、消化器内視鏡検査で使用される内視鏡をはじめとする、再使用可能な医療機器の効果的なリプロセスにおいて、考慮すべき重要項目です。これら2つの耐性機序は異なりますが、いずれも感染対策の取組みに重大な影響を及ぼす可能性があります。抗菌薬に耐性のある病原体は難治性の感染症を引き起こすおそれがあり、バイオフィルムは細菌を消毒薬から保護し、病原体を機器表面に残存させる可能性があります。このようなリスクを軽減するために、医療機関は徹底した洗浄と消毒手順を実施し、継続的なスタッフのトレーニングに投資するとともに、機器のリプロセスを常にモニタリングする必要があります。抗菌薬耐性と消毒薬耐性が進化を続ける中で、医療機関は耐性微生物に関連するリスクから患者を守るため、引き続き注意を払う必要があります。

出典と参考文献

  1. Centers for Disease Control and Prevention. “Antibiotic Resistance Threats in the United States.” U.S. Department of Health and Human Services, 2019.

  2. Centers for Disease Control and Prevention. HAIs: Reports and Data. U.S. Department of Health and Human Services, 15 Nov. 2023.

  3. Rutala, William A., David J. Weber, and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee. "Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities: Guidelines and Challenges." Infection Control & Hospital Epidemiology, vol. 39, no. 5, 2018, pp. 517–532.

  4. Pajkos, A., Vickery, K., & Cossart, Y. E. “Biofilms and their role in the resistance of microorganisms to disinfection in endoscope reprocessing.” Journal of Hospital Infection, 104(2), 156-165, 2020.

  5. Centers for Disease Control and Prevention. “Infection Control in Healthcare Settings: Staff Training and Education.” U.S. Department of Health and Human Services, 2020.

  6. Donlan, Rodney M., and J. William Costerton. "Biofilms: Survival Mechanisms of Clinically Relevant Microorganisms." Clinical Microbiology Reviews, vol. 15, no. 2, 2002, pp. 167–193.

  7. Sommer, Morten O. A., Gautam Dantas, and George M. Church. "Functional Characterization of the Antibiotic Resistance Reservoir in the Human Microflora." Science, vol. 325, no. 5944, 2009, pp. 1128–1131.

  8. Maillard, Jean-Yves. "Bacterial Resistance to Disinfectants: Present Knowledge and Future Challenges." International Biodeterioration & Biodegradation, vol. 59, no. 1, 2007, pp. 1–8.

  9. Ventola, C. L. "The Antibiotic Resistance Crisis: Part 1: Causes and Threats." Pharmacy and Therapeutics, vol. 40, no. 4, 2015, pp. 277–283.

  10. Rutala, William A., and David J. Weber. "Biofilms on Medical Instruments and Surfaces: Do They Interfere with Instrument Reprocessing and Surface Disinfection?" American Journal of Infection Control, vol. 51, no. 1, 2023, pp. 1–8.